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ブロークンウィンドウ
「ブロークン・ウィンドウ理論」をご存知ですか?
「割れた窓」と食品・食肉衛生について
みなさんは「ブロークン・ウィンドウ理論」という言葉を聞いたことがありますか?
BrokenWindowsTheory=割れ窓理論とも言います。
これは1960年代末から70年代初頭に、アメリカの心理学者フィリップ・ジンバルドー博士と犯罪心理学者ジョージ・ケリング博士が提唱した理論で、
『小さな犯罪を放置すると、やがてそれが大きな犯罪につながる』
という犯罪心理学の理論です。この理論は各種の実験や施策により実証されてきました。
【実験】
- 普通の状態の車を路上に放置してみると、
→1週間経ってもその車には何も起こりませんでした。 - 同じ場所にフロントガラスを割った車を放置してみると、
- 10分後に2名の親子がバッテリーを持ち去っていきました。
- タイヤを持ち去られました。
- 落書きをされました。
...そして1週間後...完全に車は破壊されてしまいました。
【ニューヨーク市の施策】
1970年代以降、ニューヨーク市では凶悪犯罪が急増していました。
1993年、ニューヨーク市長となったルドルフ・ジュリアーニはその公約の中で「ニューヨークを家族連れにも安心な街にする」と述べ、巨額の予算を投じて当時凶悪犯罪が多発していたニューヨークの地下鉄の落書き全て消しました。すると次第に凶悪犯罪は減少し、地下鉄の治安が回復していきました。
以上のことを簡単にまとめると、
- 車の窓が壊れたままになっていたり、地下鉄の落書きが放置されていると「そこには誰も注意を払っていない」と人は考えるようになる。
- すると、さらにガラスを割る、落書きを増やすなどの軽犯罪が起きるようになる。
- 次第に周辺住民のモラルが低下し、地域内の協力姿勢が失われ、さらに環境の悪化を招く。
- 凶悪犯罪を含めた犯罪が多発する。
という理論=ブロークンウィンドウ理論となります。
これを逆に考えることが治安回復の手法のひとつとなります。
つまり、軽微な犯罪を見逃さないことによって、犯罪を犯そうとしているような人を遠ざけ、ひいては凶悪犯罪が減少することにつながるのです。
この考え方は防犯対策だけでなく、企業の売上げアップや職場環境の向上などにも当てはめることができます。そしてこれを我々の業務である食品・食肉衛生にも当てはめてみると...
「些細な不衛生状態を放置しなければ、重大な食品事故や食中毒を未然に防ぐことができる」
ということになります。
ここでいう「些細な不衛生状態」とは
- 手を洗っていない状態
- 機械、器具をこまめに洗浄、消毒していない状態
- 食品を原材料を冷蔵庫で冷やしていない状態(室温に放置)
- 提供する食品を十分に加熱していない状態
...等々、決して実行が難しいことではなく、ほんの少しだけ注意すればできることばかりです。
細菌による食中毒予防の基本に、「食中毒予防三原則」というものがあります。
- 細菌をつけない(清潔、洗浄)
- 細菌を増やさない(迅速、冷却)
- 細菌をやっつける(加熱、殺菌)
この三原則を守るためにも上記の些細な不衛生状態を放置してはいけません。
私たちと畜検査員も、と畜場から安全で衛生的な食肉を消費者の皆様にお届けするため、と畜場で働く人々と協力しながら、些細な不衛生状態を見逃さないよう努力しています。
*Brokenwindowstheoryについての原著は以下をご参照ください。
JamesQ.WilsonandGeorgeL.Kelling,"BrokenWindows:Thepoliceandneighborhoodsafety",TheAtlanticMonthly;March1982;BrokenWindows;Volume249,No.3;pages29-38.
Zimbardo,Phillip.G."Thehumanchoice:Individuation,reason,andorderversusdeindividuation,impulse,andchaos".InW.J.Arnold&D.Levine(Eds.),1969NebraskaSymposiumonMotivation(pp.237-307).Lincoln,NE:UniversityofNebraskaPress.